アボリジニの絵画について

オーストラリア先住民 アボリジニの絵画

およそ5万年前からオーストラリアの大地とともに生活を育んできた先住民アボリジニ。時代は移り変わりすでに都市部に移り住んでいった人々が多く を占める中、太古の時代からの伝統的な文化を、歌や踊りそして絵画により次世代へと伝承し続ける人々も存在しています。 かつてはオーストラリア全土に約500もの部族と約300の言語集団が存在したといわれるアボリジニは、日本の22倍という広大なオーストラリア大陸のそ れぞれの地域で独自の文化を継承してきました。しかし、白人が入植して以来、彼らは秘境へと追いやられ、現在ではノーザン・テリトリー(北部準州)を中心 とした地域に、それぞれのコミュニティーを設け暮らしています。 そのためアボリジニの絵画にはそうした地域によっていくつかの種類や特徴があります。 彼らにはドリームタイム(夢の時代)といわれる彼等の祖先にまつわる万物創生の時代があったとされています。精霊は最初に大地や川などの地形を作り、その 後人間を含む動植物を作りそれらに生命を与え、掟を定めて世界を創造したとされており、地域による表現は異なっていても、共通して描かれているのはその世 界観なのです。 アボリジニ絵画は、文字文化を持たない彼らが、その時代に生まれた数々の神話やさまざまな文化の伝承、そしてドリーミングといわれるそれらの痕跡をたどる 旅や行為を描くことにより、それぞれが受け継いできたトーテムを後世へ継承するための文字に変わる手段として用いられてきたのです。 以下は主な地域で描かれる特徴を挙げたものです。

1. 樹皮画(バーク・ペインティング)

トップエンドといわれる豪州最北端に位置する最大の居住区アーネムランドを中心に描かれており、ユーカリの樹皮を平面に伸ばし、岩絵の具を用い、 精霊や動植物が描かれます。その背景にはクロス・ハッチングと呼ばれる細い線が交差した文様が描かれており、アーネムランドの西部、中部、東部の各地域に より、特徴に微妙な変化が見られます。土地の法を伝えるためものといわれています。

2. 岩壁画(ロック・アート)

カカドゥ国立公園やウビル、そしてアーネムランドの岩穴に多く見受けられ、古いものでは5000年以上前に描かれた壁画も残されています。オー カーと呼ばれる岩絵の具で描かれ、中には動物の内臓や骨格なども書き込められていることからX線画法ともいわれています。動物を無駄なく食するために描か れたという説もあり、当時の青空教室の黒板だったのかもしれませんね。
儀礼や太古の狩りの様子や描かれているものもあり、描かれている動物の種類から、これまでの生態系の変化や年代を推測する上で欠くことのできない貴重な資料でもあります。

3. 点描画(ドット・ペインティング)

主にオーストラリア大陸中西部に広がる砂漠地帯に暮らす人々が、神話や儀礼の伝承、そして過酷な自然条件下で暮らすための水や野生食物の在処を示 すため、砂絵として描かれていました。よってこれらは本来、絵画的な要素よりも象形文字に似た記号の組み合わせによる地図的な役割と見る傾向にあります。 作品を見ると、ほとんどがまるで空撮のように空中から観た風景を記号の組み合わせによって表現した作品がほとんどです。しかし、方角さえも記されていない この表現は、私たちの地形的な地図の概念ではなく、ドリームタイムによって生まれた地形形成のストーリーに由来するものであり、ある意味においては宗教的 絵画に相当するものと思われます。
こうした砂絵はそれまで、描かれた目的が完了した時点において抹消されてきましたが、1971年に中央砂漠地帯のアボリジニ・コミュニ ティー「パパニア」の小学校に赴任したイギリス人美術教師ジェフリー・バードンの提案により、初めて西洋の絵具やキャンバスを用いた作品制作が始まり、こ れが中西部砂漠地域でのアクリル画とされる点描画の始まりです。そうした作品に描かれているストーリーは5万年前から継承されているものですが、表現方法 は約35年前に始まったばかりです。しかし近年、欧米諸国においてモダンアートや現代アートの分野において、西洋絵画とは異なる作意の無い斬新な画風や神 秘性などが高く評価されています。しかし、そうしたストーリーの内容や伝承事項はウルル(エアーズロック)に代表される聖地と密接な関係を持つものが多 く、そのため外部に明かされることが少なく、ストーリーを想像しながらの鑑賞もお楽しみいただけると思います。
この他、西オーストラリア州北部のキンバリーを中心としたローバー・トーマスやクイニー・マッケンジー、リリー・カリダダ等よる表現。アーネムランド南 部のヌッカで描かれるウィリー・グダビ等の表現。都市に暮らす若い世代による伝統と現代美術を融合させた表現。そして、ヨ-ロッパ人による土地の占拠や不 毛の地とする偏見に対抗するための表現として、あえて西洋的風景画法をもとに水彩による風景画を確立したアルバート・ナマチラの存在は忘れてなりません。
当ギャラリーでご紹介する作品は「点描画(ドット・ペインティング)」を専門としております。